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黒い天使scorpio : 真の最終章 #6〈クリーンアップ 〓 掃討 〉

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写真: 黒い天使scorpio : 真の最終章 #6〈クリーンアップ 〓 掃討 〉

写真: 黒い天使:scorpio 真の最終章 Last:  the face of darkness 写真: 額装イメージ0003

宿敵、HILDAは倒した。後はここから一刻も早く立ち去るだけだ。しかし最後にしておく仕事が残っている。
 Ayakaは中央のデスクに近づくと、自分のメッセンジャーバックから常時持ち歩いているミネラルウォーターとアルコール入りウェットティッシュを取り出し、HILDAの返り血に濡れたCOLT45AUTOと自分の両手を清拭した。使用済みのウェットティッシュ、水のボトルは持ち帰るため、バッグに入れる。自分につながる証拠は残さない為である。

 続いてバッグから取り出したコンドームのように薄いプラスティック手袋を両手に着けた。パンツの腹に差し込んでいたFP-45リベレーターもバッグに入れた。Ayakaは、先ほど脱ぎ捨てた黒のジャケットを拾い上げ、袖を通すとメッセンジャーバックを右肩から斜めがけした。

 次にAyakaはデスクに置かれているシュマイザーMP40を取り上げて両手で構えてみた。とてもバランスがいい。マットブラックに塗装されたボディも美しい。70年前にドイツで設計された軽機関銃だが古さを感じさせない。これにHILDの部屋がカスタマイズを加えて、サウンドサプレッサーとレーザーポイントサイトを取付けた姿は溜息が出そうな魅力をアピールしていた。
 しばらく端正なその外観に見とれていたAyakaだが、この銃を持ち出す事に決めた。シュマイザーに取り付けられているストラップを右肩に掛け、左手にはシュマイザーを収納するトランクケースを下げた。

 HILDAが倒れている入口付近まで戻ったAyakは、先ほどHILDAが蹴飛ばして遠ざけたC4、同じように投げ捨てられたC4用起爆スイッチを拾 い上げた。HILDAの横に仰向けに倒れて絶命しているペトロフの遺体の白衣の胸ポケットから覗いているCross製のプラチナ貼りのボールペンを抜き、自分が常備している小さなポリ袋を取り出して中にしまった。ポリ袋は自分のジャケットの胸ポケットに差し込む。(※1これには後で使い道がある。)

 Ayakaはデスクの上に置かれたゼロハリバートンのスーツケースに近づくと中身を確かめた。ケースの中には、先ほどペトロフが手にしていた炭疽菌入 りのガラス筒が数本、その炭疽菌を瞬時に活性化させ空中に散布する為のエマルジョン、そしてそのワクチンと、それぞれの製造マニュアルが収められている。 一つずつを確認し終えたAyakaは、その中にメッセンジャーバッグから取り出した焼夷型手榴弾2ヶを放り込んだ。

「薄汚い金儲けの為に生物科学兵器を使おうとする奴は許せない。こんな奴らの犠牲になる不幸な人間をこれ以上出す訳にはいかない。」

 もちろんAyakaはケースに手榴弾を入れる前に、それぞれの安全ピンを抜きレバーハンドルを握りながら、手榴弾本体を太めのゴムバンドで固定して意図せぬ暴発は防いでいる。(※2 読者諸氏には「これじゃ破裂しないから意味がない。」と思われる方がおられると思う。しかし、その答えはしばしお待ちいただきたい。)

スーツケースの上蓋を閉じ暗証番号式のダイアルロックを回して施錠した。Ayakaは、同じデスクの上に置かれているHILDAのポーチ(黒革のエルメスだ。)からHILDAのiPhone5を抜き出して、Nano-SIMカードを抜き出した。さらにデスクの向かい側に置かれたペトロフの書類ケースからもiPhone4sを見つけ、同様にMicro-SIMカードだけを抜いた。カードを抜き出した後のiPhoneの本体2台は両方とも元通りに戻しておいた。取り出した2種類のSIMカードは、それぞれ小型のポリ袋にしまい、自分のジャケットの内ポケットに入れた。

 ゼロハリバートンを右手でぶら下げたAyakaは、ケースを下げたままHILDAやペトロフの遺体が転がっているドア入り口の近くに運んだ。

 Ayakaは倒れているHILDAの遺体に向け、心の中で呟いた。

「せっかく手に入れた大事な炭疽菌でしょう。あの世まで持って行ってね、ママ。」

 Ayakaは中央のデスクに置かれたマグダレーナのノートPCを見つめた。「これも始末しておかないと。」距離は約6mといったところか。やにわに肩のサウンドサプレッサー付きのシュマイザーMP40改 サブマシンガンを両手で構えたAyakaは、デスク上のノートPCに向けて狙いを付けた。そして先ほどHILDAがやって見せた通りにグリップのスイッチボタンを押した。するとシュマイザーの銃身の下に埋め込む形で取り付けられたレーザーサイトから赤くて細い光線が視認しやすいビームとなって発射され、立てられているノートPCのディスプレイに赤く小さな丸を照射した。それを見たAyakaはシュマイザーの引き鉄を絞った。「ダタタタッ!」という短い銃声 (音は機銃の発射音そのものだが、高音域の音をカットされている為に、聞き慣れた人間にはそれほど耳障りには聞こえない。音の大きさは電話のベルが鳴る音と同程度だ。これなら 10m程度離れた場所から発砲されれば、射手の位置は見つけにくいだろう。)が響いた。

 その音質は早打ちされたタイプライターのそれに近い独特のものだ。乾いた発射音と共に排莢口から6発の空薬莢が舞い上がった。もちろん標的にされたディスプレイは瞬時に穴だらけになった後、バラバラになっている。

 HILDAが自慢した通り、中国のウェイション ショウチアン (通称、モデル64 微声手槍 )に勝る性能だ。シュマイザーMP40改の性能に満足したAyakaはドア入り口に近い床にC4爆薬を置くと、その上にゼロハリバートンのスーツケースを乗せて部屋を出た。(※2こうしておくとC4の爆発が起きた際に、その強烈なショックでスーツケースの中に入れた手榴弾のレバーハンドルを固定したゴムバンドが解けて、ケース内部で焼夷型手榴弾が爆発。中身は完全に焼却、破壊されるという仕組みである。)
 
 分厚いチークウッドのドアを開いたAyakaは、油断なく玄関ホールを見回した。念入りにドアノブの表裏についた指紋を拭き取りドアを静かに閉めた。玄関ホールを通過して、入り口ドアに向かうAyakaの左手には愛銃COLT45AUTOが構えられ、右手にはシュマイザーMP40 改サブマシンガンを入れたトランクケースが下げられていた。

玄関ドアから前庭に出たAyakaは、ベイツ荘に侵入する時、一番最初に倒したHILDAの部下の女の遺体を玄関横の植え込みから引っ張り出すと、玄関ドアを開けて玄関ホールに引っ張り入れた。万全を期す為にメッセンジャーバッグから取り出した手榴弾の残り3ヶも、先ほどのように安全ピンを引き抜き、ハンドルを本体にゴムバンドで固定してから玄関ホールの床3ヶ所にバラバラに置いた。これで全ての痕跡は警察、消防が識別不能な程に焼けて吹き飛ぶだろう。
 
 Ayakaはドアを閉める時、ここでも忘れずに表裏のドアノブの指紋を拭き取った。最後にペトロフの遺体の胸ポケットから抜き取ったCross製のプラチナ貼りのボールペンを玄関を出たところに投げ捨てておく。(※1これが警察に見つかれば、指紋からペトロフの身元が特定されるかも知れない。ウラジミー ル・ペトロフの日本での公式の身分は<ロシア大使館付駐在武官>だ。中露アレルギーの日本外務省がどんな反応をするか楽しみだ。)

数分後、周囲の安全を確認しながら、脇道の奥に隠しておいたアウディA6の運転席に戻ったAyakaは、ベイツ荘に続く私道から三浦半島の海岸道路に向かって車を走らせた。ベイツ荘から約50メートルほど離れた道路脇 にアウディを停車したAyakaは、ジャケットの右ポケットから取り出したC4爆薬の起爆スイッチを取り出すと<アンサーバック・スィッチ(リモコンの有効操作距離を確認する為)>のボタンを押した。起爆スイッチに付けられた赤いLEDが2回、点滅した。リモコンがコントロール可能な距離である事を確認したAyakaは、すかさずメインスイッチと先ほどのアンサーバック・スィッチの2つを同時に長押しした。これでC4に差し込まれた信管に起爆の命令が届いたはずだ。Ayakaは素早くアウディA6を発車させた。それから約1分半後、ベイツ荘のある丘の上に天を突く大きな火柱が上がった。C4に続いて仕掛けた焼夷型手榴弾も爆発したらしく、火柱は数回上がった。ちなみにAyakaが使用する信管、手榴弾は特殊なセルロースを配合したプラスティックで出来ているので爆発に伴い完全燃焼してしまい残留物は残さない。近い場所では爆発音、爆風もかなりのものだろうが、アウディを運転して現場から遠ざかるAyakaには届かない。ルームミラーで丘の上の火災を確認出来る程度である。

 その5分後、Ayakaの駆る黒のアウディA6は、横浜横須賀道路の馬堀海岸ICから高速道路に入った後、今の時間は交通量の少ない横横道路を第三京浜 経由で東京に向かい疾走していた。…死ぬほど長い時間に感じたHILDAとの闘いだったが、Ayakaの腕時計の針は午後9時45分を示していた。実際にはHILDAのベイツ荘到着から45分が過ぎただけであった。

*いよいよ、あと1回。この続きは次回〈 the END of the last-show 〉に続きます。お楽しみに。

◎この物語は完全なフィクションであり、登場する人物、団体はすべて架空のものであり、特定のモデルは実在していません。

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コメント (1)

  • Yasuo Nakayama

    <DIGITAL GRAPHIC ART 秘宝館>御来場有り難う御座います。写真一覧から他の作品もご覧下さいませ。
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    2013年1月15日 01:00 Yasuo Nakayama (0)

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